「雨すごいからカレーは屋内で食べますよー! 濡らさないように中に運んで!」
遠くで、違うクラスの女の先生が声を張りあげ指示を出している。
降り止まない雨音と雷の轟音が、思考に靄をかける。と、その時。
「さきちゃん先生戻ってこないね、大丈夫かな……」
「私が落としたりしなかったら……」
不意に耳に飛び込んできたその名にはっと顔をあげる。見れば、目の前に立っていた4組の女子ふたりが顔を寄せ合い、不安げな表情で話し込んでいた。
「先生がどうしたの?」
みんながカレーや食器を持って屋内へ移動を始めている中、わたしはふたりの間に割って入るようにして声を掛けていた。するとふたりはびくっと肩を揺らしてこちらを振り返る。
雨のせいではない理由から体が冷えて、心拍数があがる。
けれど、どうかそうではありませんように、そう願った最悪の展開が返ってきた。
「あ……私がフリータイム中に山の中でハンカチを落としちゃって、それをさきちゃん先生に言ったら、ひとりで取りに行ってくれたんだけど、まだ戻ってこないから心配で……」
話を聞き終わるか終わらないかのうちに踵を返して駆け出そうとした――けれどその腕を後ろから引かれ、体の動きが止まる。
「やめろ」
わたしの腕を握っていたのは、皇くんだった。首を横に振りながら皇くんが冷静な声音で言う。
それでもわたしは声を荒らげて逆らった。
「離して……!」
「雷が鳴ってるのに、山の中に入っていこうとするなんて馬鹿だ! それにあんな山の中で見つかるわけない!」
「でも今ここで行かなかったら一生後悔する……!」


