「あーあ、俺の負けかよ。ほんとムカつく。少しでもあいつへの気持ちが揺らいだら、その時はいつでもあんたのこと奪ってやるから」
いつもの強気な言い草とまっすぐな想いが嬉しくて、胸が優しくきゅうっと締めつけられる。
わたしは笑顔を作って皇くんを見上げた。
「ありがとう、皇くん」
「なにがだよ」
「あの日皇くんに出会わなかったら、多分卒業まで一言も話すことはなかったし、ずっと皇くんのこと誤解したままだったかもしれない。あの日、窓から現れてくれてありがとう」
すると皇くんは、それまでピンと張り詰めていた糸が緩んだみたいに破顔する。
「ふ、なんだよそれ。こっちの台詞だ、ばーか。じゃ、先戻ってるからな」
「うん」
皇くんの大きな背中が曲がり角の向こうに消えると、わたしはその場に崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
梅子は何度も告白されたけれど、こんなにも心を揺さぶられたのは初めてだった。だれかを想う幸せも苦しさも痛いほどにわかっているから余計に、想いに応えられなかったことがつらい。
「ありがとう、ごめんなさい」
膝に顔を埋め、もういない皇くんに向かって囁いた。


