SHRが終わり休み時間になると、教室を出ていく先生とすれ違うようにして皇くんがいきなりわたしの机に押しかけてきた。

「桃」

 顔をあげたわたしは、いつになく真剣な眼差しに一瞬驚く。

「皇くん?」

 皇くんが醸し出す異様な空気感が伝わったのだろう。喧騒にあふれていた教室がわずかに静まる。

「話があるから、来い」
「え?」
「来い」

 もう一度言うと皇くんは、座ったままでいるわたしの手をとった。そして半ば強制的に立たせ、ぐいぐいと手を引っぱっていく。

「なにあれー」
「あのふたり、やっぱりそうなのかな」

 そう色めきだつ女子たちの声が背中にあたる。けれどぐんぐん進んでいく皇くんについていくのに必死で、そちらに意識を向けている余裕はなかった。