『こっわ……』
突然現れた梅子に怯むようにして、男たちが去っていく。
目を赤くし涙目になりながらも、凛とした立ち姿で去っていく奴らを見据えている。……と、不意に背後からのそりと現れた俺に、はっとしたように目を見張る。
『い、い、いつから?』
俺はなにも言わずに近づくと、腕を引いて、小さいその体を思い切り抱き寄せた。
突然の俺の行動に、腕の中で驚いたように梅子が身を硬くする。
『あ、あああ、綾木くんっ?』
『……黙ってろ』
雨音は俺たちを優しく包み込む。
梅子にはきっと、なんてことのない言葉。……それなのに俺は、涙が出るくらい嬉しかったんだ。
すぐに終わるはずの関係だった。
けれど、唯一の誤算は、梅子の隣があまりに心地がよかったことだ。梅子は俺の心の一番柔いところに触れた。俺がいくら素っ気ない態度をとっても、春の陽射しよりも柔らかい笑顔を向けてくる梅子が、自分の中で大切な存在に変わった。
でも俺には胸の中に芽生え始めた感情を、言葉に、そして態度にする方法が分からなかった。
そうしてうまく愛してやることもできなかった俺は、ある日突然梅子を失った。
俺は梅子が最後にくれたSOSに気づけず、そして自分が梅子にとって、この世に引き留めることができるほどの存在ではなかったと知ったのだ。
自分が犯した罪と、失ったものの大きさを前にどうすることもできずに、俺は自分を憎み続けた。
――そんな俺の前に、森下桃という生徒は突然現れた。