「叶うなら、思い切り抱きしめてやりたい。何度だって好きだと言ってやりたい。なにも見逃さないようにちゃんと目を見ていてやりたい。でもどれだけ願っても謝っても悔やんでも泣いても、あいつはもう、どこにもいない」

 感情的な先生の声が、かすかに濡れていた。

 先生の――綾木くんの気持ちを思うと胸が引きちぎれそうになり、嗚咽をこらえるので必死だった。ぽたぽたとこぼれる涙は、膝の上で握りしめた拳に水たまりを作っていた。

 わたしにとっては数ヶ月ほど前の出来事。けれど先生は10年間もの間、ずっと自分を責め続けてきたのだ。

 綾木くんから自ら手を離したのは、わたしだった。それも、なにより残酷な方法で。