「自分から抱きしめてやることはなかったし、一言好きだとさえ言わなかった。ろくに目を見てやれていなかった。……我ながら最低な男でしたよ、ほんと。異変を感じた瞬間は、どこかであったかもしれない。でもあいつに限ってそんなことあるわけないって見逃したんです。隣にいるのが心地よくて、自分が愛されることばかりで」

 先生の言葉に絶句し、気づけば頬をとめどない涙が濡らしていた。
 ようやくわたしは、自分が綾木くんに対して作ってしまった罪の大きさを知る。

「俺なんかじゃなくてもっと愛のある奴に出会っていたら、死を選ばなかったかもしれない。優しい奴に出会っていたら、SOSを出せていたかもしれない。俺はあいつをこの世に引き留めるほどの存在になれなかった。俺なんかじゃなければ、俺なんかじゃなければ……って後悔しかないですよ、毎日」

 ……違う、違うよ、綾木くん。そんな悲しいことを考えないで……。いくらそう思っても、先生には、そしてあの日の綾木くんには届かない。
 こんなことを思わせてしまうほどに、わたしは彼を深く傷つけ裏切ったのだ。自分が傷つくのが怖くて、彼に愛されていることを知ろうともせずに。