『……あ、あ……』
『はは、大胆イメチェンじゃん』
『ニューヘア、綾木くん、なんて言うだろうね~』

 伸ばした髪が自分から切り離されたその瞬間、そのはさみの先端は心の大事なところにまで達した気がした。まるで最後、限界のところで自分を食い止めていたものがぷちんと切れたみたいに。

 無惨に床に散らばる髪に呆然とする中、いつかの綾木くんの声が耳の奥で再生された。

『梅子の髪は綺麗だな。しっかり手入りしてるんだろ』
『じゃじゃじゃ、じゃあ切らない。一生切らない』
『はは、ばーか』

 ――綾木くんが褒めてくれた髪が。唯一の自慢だった長い髪が。他人の悪意によって、こんなにも呆気なく切り取られてしまうなんて。

 今まで、されるがままで一度だって逆らったことなんてなかった。けれどわたしはすべての力を振り絞って女子たちの手を振り切ると、家庭科室を飛び出た。