いじめられていることは、担任はおろか綾木くんや一緒に暮らすおばあちゃんにもだれにも話さなかった。自分のせいで心配をかけることも負担になることも嫌で、ひとりで必死に耐えていた。
 
 けれど、たったひとりの身寄りだったおばあちゃんが亡くなったのを境に、自分でも気づかないほど呆気なく、ぎりぎりのところで均衡を保っていたものが崩れたのだった。

 そして、おばあちゃんがこの世を去って間もないあの日。放課後、いつものメンバーに家庭科室に呼び出され、数人に後ろから羽交い締めにされた。
 それから臼井が大きなはさみを手にニヤニヤしながら近づいてくると、これから起こるであろう嫌な予感に身を強ばらせた。

『は、は、はっ、は、離して……っ!』
『なに言ってるか全然わかりませーん』
『大人しくしなって。うちらが超可愛くしてやるだけだから』
『やや、や、やめて……!』
『動くな』

 ――スパッ。容赦のない鋭利な音が鳴り響き。抵抗も虚しく、左側の髪を肩の辺りでばっさり切られた。