なにより最悪だったのは、わたしが綾木くんを好きだとバレてしまったことだろう。わたしがノートの端っこに書いた『綾木紗生』の文字を、クラスのリーダー格の女子・臼井に偶然見られてしまったのだ。

 クラスの最底辺であるわたしが、校内一の人気者である綾木くんを好き。その事実が臼井たちの標的になったというのは言うまでもない。面白おかしくからかわれ、それをネタにいじめられた。

 そして綾木くんへの告白。それは臼井たちに指図されてのことだった。告白しないと、わたしが綾木くんに片想いしていることを校内に張り出してと公表すると脅され、わたしは告白をしたのだ。
 臼井たちはわたしがフラれるだろうと見かね、わたしの心をずたずたにしようとしていたのだ。
 けれど臼井たちの目論見は外れ、綾木くんはOKをくれた。
 そこから臼井たちのいじめが、水面下でどんどんエスカレートしていくのは当然のことだった。だってだれもが好きになる綾木くんがわたしなんかの彼氏になったのだから。

『身の程を知れ』
『お前なんか生きる価値がない』

 罵詈雑言をかけられるだけならまだまし。物を隠されたり、裏庭に呼び出されホースで冷たい水をかけられたり、凄惨ないじめは毎日続いた。
 綾木くんと別れれば、このいじめはきっと落ち着いたのだろう。でも自分から別れることだけはしたくなかった。わたしにとって唯一心が安らぐ場所は、綾木くんの隣だけだった。そして初めて好きになった綾木くんの手を、自ら離すことだけはしたくなかったのだ。