注文したコーヒーがそれぞれ届いたところで、松尾先生が他愛ない話を始めた。

「先生って、普段の休日はなにされるんですか」
「特にこれと言ってなにも。たまに家で映画を見るくらいです」

 すべての意識を背後に向けながら、これから来るであろう告白のタイミングを待ち構えていた、その時。

「それで、話というのは」

 本題に切り出した先生がマグカップを置いた音がした。それを合図にするように和気あいあいとしていた空気が変わり、松尾先生が小さく息を吐き出した気配があった。そして。

「……綾木先生のことが好きです」

 一息にそう告げた。

「え?」
「結婚を前提にお付き合いしてほしいと、そう思って今日呼び出しました」

 松尾先生は、大人にしか口にできない台詞で、堂々として隙のない完璧な告白をしてのけた。ただ今の想いをぶつけるわたしの告白とは大違いの、将来を見据えたものだ。
 きゅうっと心臓が縮こまり、目をつむって先生の返事を待つ。