……なんて。場所も日時も偶然知ってしまったというのに、聞かなかったことにはできなかった。

 翌日11時20分前。駅前のカフェに入り、この後来るであろうふたりをこっそり待ち伏せした。もちろん帽子を目深に被りマスクを着用するという、顔の90%が隠れる変装をして。
 人の話に聞き耳を立てるなんてレディーのするべきことではないことは重々承知しているけれど、好きな人が関わってくるとなると話は変わってくる。

 オープンして間もないこともあり、土曜のカフェは人が多く賑わっていたから、身を隠すのにはかっこうの環境だった。

 珈琲豆を煎る香りが充満し、こじゃれているカフェの中、ひとりオレンジジュースをすすりながら周囲の音に耳をそばだてていると、11時を少し過ぎた頃ふたりの男女が入店してきた。ふたりはわたしが座る席の真後ろの席に座る。

「ここ、オープンした時から来てみたかったんです~」

 それは間違いなく松尾先生の声で、背筋がピンと伸びる。よりによって真後ろに座られるとは。声がする方角からして、わたしの背中に向かって松尾先生、そしてわたしと背中合わせに先生が座ったようだった。
 ふたりに背中を向けていることがせめてもの救いだけれど、うっかり声なんて出したらバレてしまう可能性がある。いっそう緊張感が高まり、グラスを持った手についつい力がこもってしまう。