そして課外学習についてのHRが終わると、先生を追って席を立つ。なにを言うかなんて考えていなかった。けれど先生に今、伝えなければいけないことがあるような衝動に駆られたのだ。
 けれど教室を出てすぐ、先生の姿を見失ってしまった。
 あたりに視線を走らせながら足早に廊下を歩いていると、突き当たりの非常階段近くに差し掛かったところで、だれかの話し声が聞こえてきた。声はどうやら非常階段の影から聞こえてくるらしい。反射的に足音を忍ばせ、そっと壁の影からそちらを覗いたわたしは思わず息をのんだ。
 そこに立っていたのはふたりの男女。先に教室を出ていた先生と、松尾先生だった。
 松尾先生は、覚悟の決まった瞳で先生を見上げている。どこから出るのか女性らしさに満ちたオーラを纏う姿は、おちない男はいないのではないかと思うくらい魅力的に見えて。きっと告白するタイミングを決めたのだろう、という気配が遠目にも感じられた。

「綾木先生にお話したいことがあります。休日ですみませんが、明日、駅前のカフェでお会いできませんか」

 静寂ゆえに、よく耳を澄ませば数メートル離れたここからでも、ふたりの声を拾うことができる。

「明日、ですか」

 少し困った様子の先生に、松尾先生はさらに詰め寄った。

「学校じゃできない話なんです」

 先生はこちらに背を向けていて、その表情を窺い知ることはできない。けれど、肩の力を緩めたのはわかった。

「分かりました。明日は特に用もないので」

 わたしの念も虚しく、先生は快諾してしまった。
 先生の返事を聞いた途端、松尾先生の声がピンク色に跳ね上がっている。

「ありがとうございます……! それじゃあ11時に駅前のカフェで!」