体育祭の熱の余韻をどこかに残したまま夏休みが近付いてきた。それと同時に、一学期最後のイベントである一泊二日の課外学習が翌週に迫った。

「あのあたりは山林で足場が悪いから、当日は必ず履き慣れたスニーカーで来るように。それから――」

 教卓に両手をつき、先生が課外学習について説明をしている。

 先生の声を聞いていると、それにリンクするように耳の奥でこだまする言葉があった。

『嫌だったからだよ、俺が』

 みんなの前で話す"教師"の時の声よりも、少し低くて温度のある声。

 あの時疼いた熱は消化できず、体の中でまだ燻っていた。

 あれから先生とは一対一で話せていない。隣の部屋に住んでいてもばったり遭遇することはないし、学校では常に先生のそばにはだれかがいる。
 だから余計に、あの日の様々は夢だったのではないかと思えてしまうのだ。