「もっと警戒心を持て! あと少し遅れてたら間に合わなかったぞ!」

 たしかにあの時先生が来てくれなければ、わたしはあの場の雰囲気に流され、ファーストキスは皇くんに奪われていただろう。
 それは自分が嫌なことを嫌だと言えない性格だから。そのことは自分自身が一番、痛いほどに理解していた。

「はい……。以後、気をつけます……」
「当たり前だ」

 なぜかまだ怒りが収まらない様子の先生。

「すみません……」

 自分の無防備さを反省し謝ると、2メートルほど先を歩いていた先生がぼそっと声を落とした。

「でも悪かったな、打ち上げ途中に連れ出して」

 歩を進めたまま言われ、先生の視界に入っていないことは承知しつつもぶんぶん首を横に振る。

「い、いえ! 助かりました……」

 自分の言葉尻が、意識が逸れたことによって弱くなっていく。頭の中を占めるのは、このタイミングしかないという緊張感だった。今聞かなければ、うやむやになってしまう気がした。