キミの願い

「笹先生ー。ちょっとこっち来て」
「はい、何ですか?」
「ん、いいよ。練習してくれて」
腕を差し出した。

「え?そんな先生になんて!」
「自分の腕でするよりマシでしょ?可愛い後輩だからね付き合ってあげる」

看護師数人に見守られる中で笹くんの採血練習が始まった。
研修医相手に身を差し出すのなんて初めてだった。
新人看護師の方がよっぽど上手だと言うことは敢えて言わないであげよう。
ここで彼のプライドを傷つけるのは可哀想だから。

「おー。もっとゆっくり刺さなきゃさすがに痛い」
「あっ、すみません。じゃ、じゃあ」

「そんなのんびりしてたんじゃ日がくれる」
「あっ、はい」

「もっと角度つけて」
「は、はい」

「ストップストップ!どこまで刺してんの」
「す、すいません」

目の前のトレーには5本分の僕の貴重な血液が並んだ。
「さてと、今日の練習はここまでにしよう。僕の身が持たない。でもここまで苦手だとは思わなかった」

「…すみません。なんでか苦手で…」
「また明日にでも中岡先生に付き合ってもらえば?」
「はい…」

翌日、中岡の怒鳴り声が医局に響いたのは言うまでもなかった……