遠くで聞こえるセミの声が夏の訪れを告げていた。
夏は嫌いだけど学生の頃は駅からゆうちゃんの家まで歩いて行っていたのが今では懐かしく、そして羨ましい。

体力のなくなった今ではゆうちゃんや看護師さんに連れて行ってもらう散歩以外には出歩かないから。
病棟の中を歩く機会も一段と減っていた。
もう立派なベッドの住人である。

「おはよう。起きてる?」

そう言いながら中岡先生はやって来た。
先生と看護師さん、そしてもう一人若い男の先生が一緒だった。
大学病院なんだから研修医の先生がいるなんて慣れっこだから気にしてなかった。

「先生おはよう」
「今日から、僕と一緒に回ってくれる研修医の先生」

そう言って若い先生を見ると紹介された先生は一歩前に出た。