久しぶりの雨だからと眺めてカエルみたいだと笑われたのは、ついこの間のような気がするのにあっという間に梅雨が来た。
窓辺に置いてある椅子に座り、外を眺めていた。

「そんなに窓にくっついて、寒くないですか?」
背後からかけられた声に驚き振り返った。
「佐伯さん、お久しぶりです。あ、今はもう原田さんですね」
そう言って椅子の横に立ったのは竹原先生だった。先生は研修医期間を終了し、春から心臓外科医としてのスタートを切ったらしい。

「先生、おかえりなさい。やっぱりここに戻って来たんですね」
「いろんな病棟を回って、それぞれ経験して尊敬できるドクターに出会って。それでもやっぱり最初の思いが捨てきれず戻ってきました」

「お医者さんって大変ですよね。専門のことだけできればいいって訳じゃないんですよね?」
「ある程度はね。頭が痛いって言う人に目薬を処方しない程度の常識があれば大丈夫です」

「例えが大げさすぎません?」
「分かりやすいでしょ?それより肌寒くないですか?一枚羽織った方がいいですよ」
「うん。でももう戻ります」
「じゃあ送りますよ」