別に疑っているわけではない。とキミは思いたかった。でも実際は疑っているというか、この男には疑うべき要素しかなかった。


まずは急な告白。そんな素振りなんて今まで一度だってなかったのに、恋愛の話ですらしたことなかったのに、男はキミに告白をした。


キミはこんなことが果たして本当にできるのだろうかと思った。だって私に彼氏がいるかどうかも知らなかったわけじゃない。彼氏がいるかどうかもわからない女に告白なんかできるだろうか。いや、きっと無理だ。


つまり彼は、私に彼氏がいないことを知っていたとしか思えない。


次に、彼が本当に学生であるかということだ。何年か前に女子高生が純文学の小説を出版して、それから2年後に芥川龍之介賞を受賞したという例がある。だから、高校生が作家をやっていても何ら不思議ではないとは思う。


でもサッカーもしながら、電子書籍作家なんてできるのだろうか。できていれば凄いし、尊敬する。ただ、彼には証拠がない。現に私は彼のペンネームも作品名も教えてもらっていない。


そして、決定的なこと。それは顔も素性も知らない相手と結婚を考えた恋愛をしようと思えるだろうかということ。


確かに私も彼のことを気になった。でも、だからと言って結婚まで考えるほど好きになれるものだろうか。もし私がデブでブスだったらどうするのだろう。それでも変わらず私のことを好きでいてくれるだろうか。


以上のようなことをキミは無意識の内に押し殺していた。それは男と話している間は、そんなことなどどうでもいいものに思えたからだった。仮にそうだったとしても楽しければそれでいい。彼は話は上手いし、私のつまらない話だって楽しそうに、時には質問しながら聞いてくれるもの。そう思うことでキミは男を好きでいられた。