「うち、門限があるので」


「まだ4時やん。全然いけるやろ」


「いや、ホントそういうの無理なんで!」


露骨に嫌がるキミ。そんなキミの耳元で彼はささやくように言った。


「ホンマはわかってんねやろ? せやから俺と会うたんやろ? 素直になろうや」


キミは踵で彼のスネを思いっきり蹴った。彼は腕をぱっと離し、それからキミは一度も振り替えることなく走った。太宰治の「走れメロス」の主人公、メロスのように。しかし、死ぬために走ったメロスとは違い、キミはこの先の希望のために走った。


駅に着いて、改札の前でキミは膝を折ってへたり込んだ。いつの間にか涙が出ていて、周りの人たちがキミを好奇の目で見た。