「はあ~この旅行楽しかったなあ~。」

アルバムを捲る手が何度も止まる。片付けあるある…だ。写真などを片付けているとついつい思い出にふけってしまい手が止まる。

また泣けてきた…。チーーーーン。また鼻を噛んだ。さっきからこれの繰り返しだ。

「そうだ、写真の片づけは止めて…。」

思い出の呼び起こされる物品の片付けは危険だと思い、別の物の片付けに移行する。

「これ大学の合格祝いにくれた時計だぁ~。」

また…思い出にふけってしまった。

これではいつまで経っても終わらない。そうだ!

私は金目の物(換金出来る物)と捨てる物に分けることにした。そうだ…勇樹は兎も角としても10年も赤の他人の私を育ててくれたこちらの両親には少しでもお返ししておかなければいけない。

「質屋と古着屋に行って買い取ってもらおう。」

私はその日から部屋の備品の分別を始めた。

月曜日、何とか会社には出勤した。朝一から報告するのも億劫だけれど、早めに伝えておかなければ後の人事が困るというものだ。

「樫尾本当に辞めるのか?」

吉田部長が眼鏡を何度も押し上げながら、私に向かって再確認をしてくる。

「はい、私の仕事の引継ぎが終わりましたら…それまでは頑張ります。」

「あ、そうかっ!寿退社か?」

あ……あはは、そう来たか。言いにくいなぁ…でも嘘を言うのは気が引けるから…。

「いえ…気持ちを切り替える為に、ちょっと遠方まで引っ越そうかと思いまして。」

私の声が漏れ聞こえたのか、部署の皆がざわついた。

そして席に戻ると、隣の席の山田 美咲先輩がぐぃぃ~と体を近づけてきた。

「ちょっと…引っ越すの?嘘でしょう?」

「いえ…本当です。え~と気持ちをきりか…。」

「彼氏となんかあったの?」

先輩、鋭い。

「よくある浮気というやつです。」