私は息を整えた。

これで勇樹が助かる、いや助けてみせる。私には勇樹を助ける力(魔力)がある。今使わないでいつ使うのだ。

この治療魔術を使うことで魔術師のいないこの世界に不審な魔術の痕跡を残すことになるかもしれない。世の中には沢山の病が存在するのに勇樹一人を助けてしまうのは間違っているかもしれない。

でも

私には勇樹の幸せな人生を、彼から奪ってしまった大切なものを返さなければいけない。

「勇樹、始めるよ。」

「お…おう!」

私は勇樹の体に術をかけた。

………体の魔力がごっそり抜けていく。病巣に向けて魔力を送り込んでいく。

意識を集中する。魔術もこちらの世界で言うところの『イメージ』が大事だ。魔力を病巣に当てている時に、良くなれ!とか病巣が消えていくイメージを頭に描く…。その方が術が効きやすい。

病巣に練り込んだ魔術を全部送り込んだ。足がフラついて床に座り込んだ。

こんなに魔力を消費した感覚は初めてだった。ベッドに手をかけて何とか立ち上がった。

ピィーピィーピィー!
ビビビビッ!

びっくりした。隣のベッドの心電図モニターの音だけじゃない。

廊下に有りとあらゆる計器のエラー音?が鳴り響いている。その音に驚いたのか、患者さんから悲鳴やら騒いでいる声が聞こえて、急に部屋の電気が点いた。

看護師さん達が走り回っている。私は怖くなってガタガタと震えていた。

こんなに機械に影響があると思っていなかった。

勇樹を見ると、眠っているのか…いや、気を失っているのかもしれない。魔質を診てみる。

うん、魔流が足まで流れてきている。私の魔力と勇樹の魔力は反発せずに上手く交じりあっているようだ。とりあえずは成功だ。

しかしまだ、油断は出来ない。

やがて病棟内の計器の警告音が鳴りやんだ。

正直、他の患者さんに魔力を注いで治してあげる魔力は残っていないが、音が止まってとりあえず混乱は収まったようだ。

暫く、勇樹のベッドの横の椅子に腰かけていたが…おかしい。

自分自身の体の魔力の流れがいつもと違う。弱い…という表現が当てはまるか。

治療で魔力を使い過ぎたのかな。

それから夜明けまで病室で勇樹を診ていた。魔力の流れは綺麗に体全体を流れている。

ひとまず安心して、私は転移して自分の家に帰った。