先生は淡々と勇樹の状態を説明し、今後の治療方針を説明して病室を出て行った。

看護師さんは聡子さんと私の椅子を用意してくれたので、勇樹の枕元に、座った。

「そ、そうだ…。お兄ちゃんに連絡…。」

お兄ちゃんとは…勇樹のお兄さんで、今はシンガポールに海外赴任中で、向こうで奥様と娘さん2人の4人家族で住んでいる。

聡子さんは震える手でメッセージを入力している。

勇樹が下半身付随?

ベッドの勇樹の下半身を見る。体の奥の奥まで診てみる。魔力の巡りを再確認する。

やっぱり魔流が全く見えない。

私は震える聡子さんの体をずっと摩っていた。

昼から勇樹のお父さんも顔を出されて改めて、先生から詳しいご説明があるとの事で、私は勇樹と病室で2人きりになった。

それにしても浮気女はどこに行ったんだろう?

「莉奈…。」

びっくりした。寝てるのかと思ってた。

「何?」

勇樹は目を瞑っている。

「お前でもあんな風に怒るんだな…。」

なんだその言い方。

「お前でもって…そりゃ怒るよ。チンチクリンは言い過ぎたかな、とは思うけど。」

「ふはっ…イテテ…そっか…そうだよな。俺さ、お前って冷静だし…頭良いし泣いたりしないと思ってた…。」

「はあぁぁ?!」

びっくりだ。勇樹から見たら私はそう見えていたのか。

しかし、そうかもしれないな…と自分の過去を思い出していた。この世界にやって来て居場所を見つけて樫尾 莉奈という高校生に見えるように必死だった。

この世界に居続ける為に…本当の自分は隠したままだった。

「そうだね…そう見えるように隠してたかな?もうしないけどね、必要ないし。」

そうだ、もう必要ない。そのうち異世界に帰るし、勇樹に今更嫌われても構わない。