…彼だ。

彼氏のマンションに向かう道の途中でその姿を見た。

そう前を歩く、見たことのあるダウンジャケット姿に彼の体から漂う魔力…。間違いない。私の彼氏だ。しかし私の彼氏の横を歩く女は誰だ?

彼と女の、2人の距離感が近い。眩暈がする。まさか…まさか…。

「勇樹!」

彼、鴻田 勇樹(こうだゆうき)がぎょっとしたように振り向いた。

勇樹の魔質が激しく動いている。動揺したりキョドるくらいなら、自分のマンションに連れ込もうとするな!私に見られる危険性を考えなかったのか?!

勇樹の横に立っていた女はスッ…と勇樹の後ろに隠れた。そして何とも言えない目で私を見ている。

その女は私を嘲笑っていた。ああ…これは確定かっ?!

怒りや悔しさで体がぶるぶると震える。視界が歪む…私、泣いている。

「り…莉奈…。」

何を思ったのか、馬鹿の勇樹は私に近づこうとした。この期に及んで言い訳か?それとも別れ話か?

ああ、あんたもか…。あんたも私の親のように捨てるのか…。

「いら…いらないなら、捨てるつもりならはっきり言ってよ!お前なんかいらないって!」

勇樹はびっくりした後、顔を歪めた。泣きそうな顔をしている。

あんたが泣くの?何それ…。

私は泣きながら勇樹の前から逃げ出した。そう…逃げ出した。結局、私は後ろめたいのだ。逃げることしか出来ない。最低の彼女だった。

後ろから勇樹が追いかけてくる魔力は感じない……。

くそーーっ!人生で初めて出来た彼氏に浮気された女は私です〜!