先輩のお母さんはご主人を亡くして悲しくて立ち直れなかったといった。もちろんその気持ちを想像しただけで心が痛む。でも、それは父親を亡くした先輩だって同じだ。そのままお母さんとも何年も会えなかった先輩の気持ちを考えるといたたまれなかった。

「私、なんでも作ります。そんなに料理上手じゃないけど、練習します。」
「うまいよ。知佳は。料理。」
先輩の言葉に私は首を横に振った。
「先輩が食べたいものをなんでも作りたいんです。」
私の言葉の意味が分からない先輩が首をかしげる。


私は先輩のそばに近づいた。
「しゃがんでください」
私よりも背が高い先輩にそういうと先輩は私に目線をあわせてしゃがんでくれた。
「ん?なんだ?」
先輩は首を傾げたまま私を見ている。

私はそんな先輩を抱きしめた。