贅の施された邸に、荒々しくドアを閉める音が響き渡る。


「お帰りなさいませ。旦那様」


機嫌の悪い男性は目線を向けたものの、玄関で出迎えた数人の使用人達を無視して、横を通り過ぎる。


『機嫌の悪い旦那様には、関わるな』


それが暗黙のルールで。


使用人達は、彼の機嫌を損ねないようにと細心の注意をはかりながら、各自作業に取り掛かり始めた。


「あら、お父様!」


花の咲いたような笑顔で向かいから歩いて来たのは、ルティアン・モゼ・ベルデーク。


ベルデーク公爵の一人娘だ。


無邪気なその姿に、ベルデーク公爵の表情が自然と穏やかになる。


「王城でのご用事は済みましたの?」

「あぁ。王様は朝早くに出発なさり、お会い出来なかった。だが、帰りに噂の珍しい方に会ったよ」


"噂の"と言う言葉に、ルティアンは反応する。