声を荒らげる公爵の目は、酷く冷たく。


人を見下すような鋭い目つきに、思わず私は眉をひそめる。


公爵を理由にとる傲慢な態度に、相手を見下すその姿。


本当は、荒波を立てずにその場を終わらせたかったが。


軽く深呼吸すると、口を開く。



「………ベルデーク公爵閣下」

「何だ!」

「侍女が失礼致しました」


その言葉を聞いた公爵はやや驚いた様子だったが、偉そうに笑った。


「…ふん。判断力の良い妃だな」


クランベルがこれ以上相手に無礼を働けば、罪に問われるかもしれない。


こんな公爵だもの。


あり得なくもない。


(……………なら、私が言えばいい)


「ですので、代わりに私が。大切な侍女をその様な目で見ないで頂きたい」


公爵の目を真っ直ぐ見て言葉を放つ。


顔を真っ赤にさせた公爵は、怒りに震えている様にも見える。


「……………それはこの私を古くから王家と関わりのある公爵だと知っての事か?」


「えぇ、もちろん」


王家と関わりのある公爵だから、何だ。


関わりがあるのはその名で、この人自身ではない。


「自分で言うのもあれですが、一応私は王妃です。例え公爵の方とあえど、礼儀を取るのは当然の事。…………しかし、今のその態度。私に対して何と無礼な」


「何だと……っ…!!」


今にも手を上げそうな勢いのベルデーク公爵。


恐ろしい形相で私を睨みつける。


相手が権力を使うのなら、私も同じ手を使おう。


妃という立場の私であれば、相手も下手に手は出せないだろうから。


近づく距離。


もしかしたら、普通に殴られるかもしれない。


少しの不安を胸に抱く。



___シュッ。


しかし、その心配は杞憂だった。


「これ以上は近づくな」


鋭い刃が公爵の喉元に、突き付けられる。


「……………テオビューク卿!?」


思わず目を見開き、驚く。


前に飛び出したのは先程まで後ろにはいなかった、護衛騎士のテオビューク卿。


(近くを散歩するだけだから、付いて来なくて良いと言ったのに………)


「その服は第一騎士団か………。今は王の護衛で外に出払っているというのに、何故ここにいる?」


「王妃様の護衛に決まっております」


テオビューク卿の表情は角度からして見る事は出来ないが、向かいに見える公爵の表情はとても険しい。


目には見えないが、二人の間には火花の様なものが確かに散っている。


「…………………………ッチ」


長い沈黙のあと、公爵は諦めたようにこちらに背を向けて、その場から立ち去った。


「命に背き、大変申し訳ございませんでした。いかなる罰であろうとお受け致します」