「良いか?これは命令だ」


そう口にすると、ルークスは口をつぐんだ。

命令とあれば、受け入るしかない。


これは最終手段だ。


毎日、少しずつ言葉を交わすだけで人は徐々に心を動かされる。


俺はそれを身を持って知っている。







『ねぇ、今日は良い天気ね』



『ほら、そんなに警戒してないでご飯を食べて?早く元気にならなくちゃ』



『体を動かしましょう!師匠の訓練は少々キツいけれど、動かし甲斐があるのよ』






懐かしい光景を思い出し、思わず口元が緩む。


始め相手を嫌だと思っていても、知っていけば思考も変わる。


行動が変わる。



あの者に執着する理由は簡単。


もちろん、リティ様の生まれ変わりだからだ。


………………だが。


リティ様の生まれ変わりである以前に、あの者を見た瞬間、褪せていた世界が一気に色付いたものになった。


それは、あの当時の俺にとってはかなり衝撃的な出来事で。


正直、あの者を『好きか』と聞かれると実際よく分からない。


だが。


あの時。


単純にあの者が美しいと感じた。


光を反射して輝くシルバーピンクの髪が。


単純に、美しい…………と。


再び手に視線を向ける。


残念ながら手には、既にあの感触は残っていない。


前から走ってきた騎士が、ルークスに告げる。


「お取り込み中、失礼致します。宰相様がご到着でございます。そろそろ出発をとの事ですが……」


「………分かりました。王様、そろそろ…」


「……あぁ、急ごう」


止めていた足を再び前へ動かす。


胸をざわつかせる不安は、何に対してか。


ドラゴンの上に乗り、目的地を目指す俺は深く考えもしなかった。


あんな事件が起きると、知っていれば視察を中止又は騎士の増員をしていたと言うのに_____………。