静まり返った執務室へ近づく、廊下の足音。


その音が静止すると、次に聞こえてきたのはドアをノックする音だった。


___コンコンコン。


「王様。出発の準備が整いました」

「………………」

「……王様?」

「…あぁ。出発しよう」


凝視していた手から目線を外すと、椅子から立ち上がり廊下へ向かう。


「王様、いかがなさいましたか?」


ルークスは心配そうな表情を見せる。


「…………大丈夫だろうか」

「王城でしたら、このルークスにお任せ下さいませ。主の不在中でも立派に守って見せます」

ルークスは自信満々に口を開いた。


(実に心配だ……)


不在中の王城に関しては、全く心配していない。


いつものように、ルークスが管理してくれると信じているから。


今回心配しているのは、あの者。


実力のある騎士を護衛に与えても、その不安は消える事がない。


「その他にも、何か心配事がございましたでしょうか?」


首を傾げるルークス。


王妃に関しての詳細を明かさなかった為か。


王城勤務の大臣を始めとする他の貴族達が、疑心と不満を近頃現している。


貴族派の中でも特に厄介だと考えるのは、公爵のシーザ・ヤン・ベルデーク。


大臣や権力のある重要貴族達と繋がりを持ち、敵に回すと面倒くさい人物。


一時は娘を王妃にと、公爵自ら申し出た事もある。


その時は断りの連絡をしたが、未だに娘を王妃にさせるつもりなのか。


公爵を中心とするその周辺で、思わしくない噂が流れているらしい。


『側室の妃でありながら、王のお手つきもない女』

『身分不詳の怪しい妃』

『卑しい身分故に、詳細を明かせないのではないか』


その噂は今でこそ貴族の間だけを流れているが。

その内、民の間でも噂される様な事になれば。


『新しい妃を』


最悪、そう口にする奴らの思考が現実になりかねない。