___コンコンコン。


珍しく部屋のドアが鳴る。


「王女様。ケレイブ様がお見えでございます」
「……………っ!」


その名前を聞いた途端、身体が反応した。


ケレイブ。

ケレイブ・ヘス・ティアンノ。

他国との貿易で成功した男爵家の嫡男で、顔は良くないがとても心優しい青年。


私より五歳上で、今から七年前。


お城にある庭園で一人寂しく遊ぶ私へ、優しく声をかけてくれた人物だ。


「直ぐに支度を済ませるから、取りあえず庭園へ____………いえ。客間へ通して」
「…………………………かしこまりました」


長い沈黙の後、不満げな使用人の声が聞こえた。そして、その足音が遠ざかる。


(一応、この国の皇女だし客間ぐらい使用しても問題ないよね?って言っても、二十八番目の皇女だけど…)


私の暮らす国、スレンスト帝国。


私は多々いる皇女の一人で、通称"忘れられた皇女"とも言われている。


理由は簡単。皆が私の存在を無いものにしたいから。


皇帝陛下の血が体の中で流れていると同時に、使用人をしていた平民である母の血も引いている為、


高貴な者はそんな平民混じりの私を毛嫌いしている。


それだけならまだ気持ちが楽だったかもしれない。


母がヒステリックなあの性格でなければ。