「お帰りなさいませ」


黒色のタキシードに身を包んだ白髪の男性が、深々とお辞儀をする。


事情を聞かされていないとは思えない程、その男性は落ち着いていた。


「そちらの方は…」


王様の横に立つ私へ、ゆっくりと視線を向ける。


その目は見た事のない私に対して、どこか警戒している風にも見える。



「…………大体予想がつきました」



何かを考える様な沈黙の後に、まるで全てを察したかの様な男性の重いため息が聞えた。


その姿はとても憂鬱そう。


気を取り直す様に咳払いをすると、その男性は再び私に視線を向けた。


「…先ずはご挨拶致します。わたくしはここの執事長を務めます、ルークス・モイラーと申します」


丁寧な自己紹介。


ルークスと名乗るその男性はどうやら執事らしい。


取りあえず、こちらも自己紹介をする。


「私は…スレンスト帝国二十八番目の皇女、ガーネル・リドゥ・スレンストです」


その名前を聞いた途端、眉間にシワが寄ったのを私は見逃さなかった。


嫌悪するかの様にその表情は険しい。


会ったばかりの私が一体何をしたのか。


そんな不満が心の中に浮かんだけれど、他国の皇族が王様と一緒にいれば、そんな表情にもなるのだろう。


「ルークス」

「はい」

「侍女長を執務室へ連れて来い。その後にレニアスを同じ場所へ呼べ」

「かしこまりました」


命令を受けるとルークスさんはお辞儀をして、早々その場から立ち去った。


「付いて来い」


ドラゴンを空へ放つと、王様は前へと歩き出した。