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「これだけ晴れていると、気持ちが良いね」



雲一つない晴天に心を弾ませた私は、クランベルを連れて散歩を楽しんでいた。


庭園へ差し掛かった時、思わぬ人との遭遇に思わず足を止める。



「お久しぶりでございます。王妃様」



「貴女は確か………」



前から使用人を引き連れ歩いて来たのは、夜会の時にお会いしたベルデーク公爵令嬢。



まるで何事も無かった様に、私へ穏やかな表情を向けている。


「お父様の用事で、わたくしも王城へ伺いましたの」


「そうなのですか……」


以前のベルデーク公爵の件もあってか、後ろに控えているクランベルの機嫌が明らかに悪い。


夜会での私みたいに、相手を知らないわけでは無さそうだ。



「王妃様。次のご予定がございます」


急かす様なクランベルの声が後ろから聞こえてくる。


本当はこの後に予定などは入っていないが、公爵令嬢と長い時間居させない為の気遣いだろう。



(まぁ…夜会の件もあるから、私もあまり一緒には居たくないけど……)



この様な天気の良い日は、庭園を散歩したかった。


「それでは、失礼します」


この場から立ち去ろうとしたその時、公爵令嬢がいきなり目の前で頭を下げた。



「この間はすいませんでした……」


「え…?」


「夜会で無礼な態度をとったみたいで……実はお酒を飲んでからの記憶がありませんの」


涙ぐむその姿は、この間私に見せた態度とはまるで違う。


「そ…そうなのですか?」



態度が急変した令嬢に戸惑いながらも、言葉を返す。



まさか、本当に酔っ払っていたのだろうか。



少し信じ難い気もするが、頭を下げるその姿は本当の様にも思える。


周りには他の使用人等も居り、ひと目も気になるのでここは許す他ない。


令嬢からは、特に何かされた訳でもないし。



「いえ……私は気にしておりませんわ」


「まぁ…!王妃様はお優しいのですね」



嬉しそうに微笑む姿は、女の私から見ても可愛らしいと思う。



この間の夜会で、私に対して見下した態度を見せた人とはとてもじゃないが思えない。



(………やはり、あの時は酔っ払っていらしたのかな)


始めの疑問から、肯定へ変わる。



令嬢はお酒を口にすると、人が変わるタイプの様だ。



「……今後は、余りお酒を口にされない方が宜しいかと思います」


「お恥ずかしながら、良く言われますわ…。今後は十分気をつけます!」


「えぇ、そうされて下さい」



話が一区切りついたところで足を動かし始めたが、令嬢の何か閃いた様な声に再び足を止める事になった。



「そうですわ…!王妃様さえ宜しければ、ここでお茶会を開きませんか?」


「お茶会?」


「えぇ!他のご令嬢方もお呼びしてこの美しい庭園でお茶会を開くのです。きっと楽しいですわ…!」



楽しそうに笑顔で提案する彼女の姿に、その後ろで控えていた使用人達も賛同する様に頷く。


「わたくし、王妃様ともっとお話がしたいと思ってますの……。どうか、機会を与えて下さいませんか?」


「えっと………」