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自室での静養とは、実に退屈なものだ。


一日中ベッドの中で横たわる私は、物凄く退屈していた。


頭を使う事を禁止された為、好きな本も読めない。


ただ、一日三度の食事を自室で摂り、後はベッドの上で横になるだけの一日だ。


「お妃様、ご心配はいりませんよ。皆、お妃様の味方でございます」


「あ…ありがとう」


スレンスト帝国の皇女だと言う事が、今回の会議で発表された。


私は予め知っていたので驚く事は無かったが、気になったのは侍女の反応だった。


この国の人達がスレンスト帝国の人間を良く思っていないという事は知っている。


だからこそ、周囲の反応が怖かった。


仕えてくれていた人達が私の元から離れていき、また独りになる事が。


けれど、心配はいらなかった様で。


ここにいる侍女達は皆、優しい。


スレンスト帝国の人間と知っても尚、私の味方だと言ってくれる。


(ここは……何だか暖かい)


朝目覚めるときは、そこに必ず誰かがいて。


暖かい食事も食べれる。


無視される事はないし、思えば好きな事も出来る。


危険な事は起きたけれど、それでも私はこの生活に不満などはなかった。


「ねぇ…クランベル」


「何でしょう?」


ベッドの隣にある机へ紅茶を入れたティーカップを置くクランベルに、唐突な質問をする。


「……好きって何だろう?」


帝国に居た時、私はケレイブ様へ恋をしていた。


一緒になりたいと思うほどに、好きだった記憶がある。


けれどそれは、裏切られた瞬間に冷めてしまう様な、簡単なものだったと知った。


あの中で唯一優しい言葉をかけてくれた存在だったから、執着してしまったのか。


私がこれまで恋だと思っていたその感情が、今になって良く分からなくなった。