「そなたは人質として連れて来た訳ではない」
王様の口から告げられたその言葉は何とも意外なものだった。
(人質……じゃない?)
思わず自分の耳を疑う様に黙り込む。
正直言って私は帝国で過ごしていた時、王様にお会いした事はもちろんない。
他国の王様の目に留まる様な美しい容姿でもなければ、耳の入る様な功績を残した訳でもない。
言わば普通の女で、更に言うと存在を忘れられた皇女で。
当然、私が娶られたのは政治的な観点と帝国を潰す為の人質としてだと思っていた。
でなければ、王様はあの時私を娶られるはずがなかっただろう。
それなのに、人質ではない?
では、私は一体何だというのか。
何の為に娶ってまでここへ連れて来たのか。
訳が分からすに首を横に傾げる姿を見て、王様は少し言いにくそうに視線を横に逸らした。
王様であっても言いにくい言葉などあるのだろうか。
「…………ぼれ」
「……はい?」
良く聞き取れず、聞き返す。
「……一目惚れ……だったのだ」
(…………んん?)
今王様の口から発せられた言葉を、必死に考える。
ひとめぼれ。
(間違いない…よね…?さっきの言葉どう考えてもそう言っていた気がする)
予想外の言葉に、瞬きの回数が増える。
失礼ながら王様の口から出るとはとても思わないその言葉。
言葉は分かっていても、やはり聞き間違いな気がしてもう一度だけ聞き返す。
「えっと……今、一目惚れ…と仰られましたか?」
「そうだが」
やはり、そうだったようだ。
「あの…王様」
「何だ」
「失礼ながら……私をどこで……」
他国のパーティーにも参加した事のない私が唯一参加していたのは、帝国のお城で開かれるパーティーぐらいだった。
その時は必ず男爵家のケレイブ様もご一緒で、ケレイブ様の挨拶が済むと一緒に外の庭園へ抜けていたのを思い出す。
(……あの時が私の幸せの絶頂だったよね)
王様の前だというのに、思わず過去の思い出に懐かしんでしまう。
確かそのパーティーでは他国のお方も見えられていたと聞いた事があるが。
(まさか……)
「帝国主催のパーティーへ……お越しになった事がお有りなのですか…?」
「あぁ」
その質問に王様は、二文字で返事をした。