(怖い…………)


目の前に広がるのは、ただ恐怖。


始めに見たのが、手懐けられた大人しいドラゴンだったからか。


今、目の前に写るそのドラゴンによって、それは塗り替えられる。


「……………っ」


このまま食われてしまうのではないか…という恐怖からか。


上手く声が出ない。


……いや。出たからと言って、どうかなる訳でもないが。


これ以上下がれないところまで辿り着いた私は、ツバを飲み込む。


もうこれ以上は後ろへ行けない。


…………まさに、大ピンチだ。


目の前にいるドラゴンは、もの凄い威圧感を放っている。


(こんなところで…死にたくない………っ…!)


この国へ嫁いでから、覚悟はしていた。


私は人質で、いつ無くなるかも分からない命だと。


王様の機嫌を損ねさせただけで、簡単に飛ぶものだと覚悟していた。


けれど、私はまだ生きている。


噂で聞いた王様は、冷徹で慈悲の心さえ持たない非情なお方だとお聞きしたのに。


私に護衛騎士を授けて下さっただけでなく、私を託す様なお気遣いのお言葉もお掛けになり。


噂とはどこか違うお方だと思った。


正直、まだ王様の事は分からない。


けれど、酷いお方ではない。


死にたくない理由。


それは、まだ知らない王様をこれから知っていきたいと思っているからなのかもしれない。


(こんなところでは死ねないよ……)


そう願っても、相手はドラゴンだ。


どう足掻いたところで、どうにもならない。