「奈生ちゃん…自分を偽っちゃダメだよ」


ドキンッ


目を閉じて甲斐さんに溺れようとしていた私に


冷静な優しい声で諭すように言う


そっと身体を押し戻されて顔を覗き込まれた


ドキンッ


そんな優しい目で見ないで…


胸が苦しいよ


やっぱり…偽りの姿は見破られる


忘れさせてなんてむしがよすぎる


『…ごめんなさい…』


何を謝ってるんだろう


何で涙がでるんだろう


自分でもよくわからない


俯く私の頭を甲斐さんはポンっと叩く


「お前らは何やってんだか…わかんないよ」


お前ら?


甲斐さんの温かい指が私の左耳の下にそっと触れた


「こんなトコに宣戦布告するんなら連れて帰りゃいいのに」


えっ…何?


甲斐さんの言ってる意味がわからなくて


涙が止まらなくて


『ごめんなさい…』


ただ謝り続ける私の前で甲斐さんは携帯を取り出した


何?


『…甲斐さ…』

「あっ!将太郎か?すぐ戻って来い!大至急!上司命令」


一方的に言って電話を切る


呆然とする私ににっこり微笑んだのは確かに甲斐さんなんだけど


何だか知らない人みたいだ


どうして?