10月12日ー。
ににぎは、緊張した面持ちで、桜に来た。
桜は、今日も、多くの人が並んでいた。
ににぎは、予約側に並んだ。
「(誰にも会いませんように……。)」
ににぎは、祈った。
「(一人だし……、昨日、いきなり言ったから、BARの方かな……?)」
色々と、考えていると、すぐに、順番が来た。
「お待たせしました!
お名前をお伺い致します!」
「ににぎです……。」
「ににぎ様ですね?
お待ち
しておりました。
さのいの札をお持ちになって、担当が来るまで、お待ちください。」
「はい。
(さのい……?)
(さって……、まさか……、さくら……?)
(……そんな訳ないよなぁ……。)
(一番人気って、言ってたし……。)」
色々考えていると、担当の子が来た。
「お待たせしました!
いらっしゃいませ!
本日、担当させて頂く、えまと申します!
では、早速、お部屋に、ご案内させて頂きます。」
「はい。」
えまについて行くと、通されたのは、あの一番人気の四席の内の一つだった。
「えっ?!
ここ?!?!」
「はい!」
「間違いじゃなくて?!」
「はい。」
ににぎは、驚いた。
「どうぞ、お座り下さい。」
「はぁ……。
(本当に、いいのかよ?)」
えまに促(うなが)され、ににぎは、座った。
ににぎは、桜を見ながら、おしぼりで、手を拭いた。
えまは、正座した。
「本日は、桜に、ご来店頂き、誠にありがとうございます!
本日、担当させて頂きます、えまです。
よろしくお願い致します!」
えまは、一礼した。
「では、初めのお飲み物をお聞き致します。」
「じゃあ、シャリーテンプルで。」
「かしこまりました。
それでは、少々、お待ちください。」
えまは、一礼して、部屋を出た。
ににぎは、タッチパネルで、料理を注文し始めた。
その時、鈴が鳴り、飲み物と同時に、サクヤが来た。
サクヤは、昨日と同じ挨拶をした。
ににぎは、サクヤに質問した。
「ねぇ……、なんで、この部屋なの?」
「お気に召しませんでしたか?」
「いや、他の人に悪いと思って……。」
「やはり、ににぎ様は、お優しい方ですね。
この席にしたのは、ここだと、あたしが、長居出来るからです。」
「えっ?!
どういうこと?!?!」
「もう少し、ににぎ様とお話したいと言う、あたしのワガママです。」
ににぎは、耳まで真っ赤になった。
「で……、でも……、なんで、俺と……、話してみたいと思ったの……?
(期待するじゃんっ!)」
「昨日、迷いもなく、ハマチの刺し身をご注文頂き、助けて頂いたからです。
他のお客様は、何かしら理由を付けて、あたしとデートしようとしていました。
そんな中で、何の条件もなく、快く、ご注文頂けたので、嬉しかったんです。」
「そうだったんだ……。
(注文を理由に、デートとか言う奴いるんだ……。)」
「なので、特別扱いさせて頂きました。」
「そっかぁ……。
俺、絶対、BARの方だと思ってた。
一人だし……。」
「そうだったんですね。
ここから見る桜は、いかがですか?」
「最高だよ。
毎日、見たいくらいだ。」
「では、毎回、桜の間に致しましょうか?
あたしも、その方が、長居出来ますし……。」
「いや、それは、悪いよ……!」
「大丈夫です。
桜の間は、あと、三席ありますから。
お気になさないで下さい。」
「じ……、じゃあ、お願いしようかな……。」
「かしこまりました。」
サクヤは、微笑んだ。
「サクヤさん、聞きたいことがあるんだけど……。」
「サクヤで、いいですよ。」
ニコッと笑う、サクヤ。
「えっ?!
でも、誰にも呼び捨て許してないんじゃ……?」
「ににぎ様なら、構いません。
ただし、二人きりの時にして下さいね?」
「わ……、分かった……。」
「それで、聞きたいこととは、何でしょう?」
「あぁ、本当に、彼氏居ないの?」
「はい。
居ません。」
「なんで居ないのか……、理由聞いてもいい……?」
「実は……、このお店にご来店頂いてる、ほとんどの男性から、「好きだ。」と、告白されておりまして……。
誰かとお付き合いしてしまったら、その方が、嫉妬されてしまうのではないかと、心配なんです……。
好きな方が、嫉妬されて、酷い目に合わされるのは、心苦しいものです。
だから、誰とも、お付き合いしていないんです。」
「なんか……、俺と一緒だね……。」
「えっ?!」
「俺、BARで働いてて、BARに来る、俺目当てのお客さんに「好き。」って言われるけど、サクヤと同じで、酷い目に合わされるんじゃないかって、彼女が作れないんだよね……。」
「そうだったんですか……。
一緒ですね。」
サクヤは、ふふっと笑った。
「でもさ、俺、彼女欲しいと思ってるんだ。
守ってやりたい。
幸せにしてやりたいって。
頼りにならないかもしれないけど……。」
「そうなんですね……。
(ににぎ様の彼女なら、幸せだろうなぁ……。)
(彼女に選ばれる人が、羨ましい……。)」
そこに、料理を持って、えまが来た。
「お待たせしました!
って、店長?!?!
どうして、こちらに?!?!
わたし、ミス……、しました?」
「いいえ。
あたしが、居たかっただけよ。」
「良かったぁ……。」
えまは、安堵した。
が、サクヤの言葉に引っかかりを持った。
「(えっ……。)
(「あたしが、居たかっただけよ。」?)
(あの店長が……?)
(あの店長が、男の人と二人きりで?!?!)
(「話したい。」……?)
(どういうことぉーっっ?!?!)
(まっ……、まさかっ!)
(店長、初恋……?!?!)
(えっ?!)
(これって、ビックニュースじゃんっっ!!!)」
えまは、固まってしまって、心臓バクバク状態……。
「えま……?」
サクヤの声も届かない程、えまは、パニック!
「店長!
これって、もしかして、その……。」
えまの慌てぶりに、サクヤは、悟った。
「違うのよ。
ただ、話してみたかったの!」
えまは、サクヤの耳元でささやいた。
「いや、でも、店長が、そんなこと言うの、初めてですよ?
しかも、桜の間で……。
店長……、もしかして、ご自分のお気持ちに気付いてらっしゃらない……?」
「えっ?!
好きとかいう気持ち……?」
「そうですよ!」
「それはないわ。
ただの、お客様よ。
気にしないで。」
サクヤは、自分の気持ちに気付いてなかった。
えまは、 納得いかなかったけど、仕事に戻った。
サクヤは、ににぎと話していて、時間を忘れていた。
「もう、こんな時間!?!?
挨拶に回らなきゃ……!
ににぎ様、今日、お店を閉めたあと、10分程、お時間を下さい。」
「わ……、分かった……。
(まさか、告白される……?)
(でも、そこは、男として、俺から言いたいなぁ……。)」
なんて、思いながら、料理を堪能。
その時、Limeが鳴った。
相手は、兄貴……。
「兄貴、なんか用?」
「お前、今、桜にいるだろ?
しかも、桜の間!」
「なんで、知ってるんだよ!?」
「俺の友達が、その近くに居るんだよ!
サクヤちゃんと長々と何話してたんだよ?
友達が、サクヤちゃんが、お前のところから、なかなか、出てこないって……。
何話してたんだよ?!」
「他愛もない、世間話しと、昨日の感想だよ。」
俺は、兄貴に嘘をついた。
「本当か?」
「うん。」
兄貴とのLimeが終わってから、すぐくらいに、サクヤが来た。
「どうしたんですか?
暗いお顔されてますよ?」
「実は……。」
俺は、兄貴にLimeで、言われたことを、サクヤに話した。
「やはり、言われてしまいましたか……。
まさか、お店の中に、友達を作っていらっしゃるとは……。
対策を考えさせて頂きます。
不快な思いをさせてしまったこと、心よりお詫び申し上げます。」
「サクヤのせいじゃないよ。
って言うか、兄貴にも、告白されてたんだね……。」
「はい……。
実は、そうなんです……。」
すると、また、Limeが鳴った。
「そんなに、長く、サクヤちゃんが、居るなら、そっちに行こうかなぁ……。」
「えっ?!
それは、ダメだろ。
初めに決められた席でないと……。
ってか、兄貴は、誰と来てんの?」
「つくよみ叔父さん。
二人で、そっちに行くわ。」
「来なくていい。」
「お前だけ、サクヤちゃん独り占めとか、卑怯だろ!」
「いや、サクヤさんに迷惑かけるから……。」
「サクヤちゃんは、なんて言ってるんだ?」
俺は、サクヤにスマホを渡した。
兄貴とのやり取りを見ていく、サクヤ。
「このまま、打ち返していいですか?」
「あぁ、いいよ。」
「サクヤです。
ににぎ様のスマホを借りて、お二人に、Limeを送っております。
本日も、皆様のおかげで、大盛況となっております。
大盛況時のお部屋の移動は、担当の混乱を防ぐ為、お断りしております。
もう少し、お客様がお帰り頂かないと、お席の、ご移動は、出来ません。
ご了承ください。」
サクヤは、それだけ打つと、スマホを俺に返してくれた。
「これで、大丈夫だと思います……。」
「ありがとう。」
ににぎは、微笑んだ。
「(わぁー……。)
(ににぎ様の微笑み……。)
(何だか、心を奪われるわ……。)」
サクヤは、ににぎに、本気で恋していた。
「あっ、サクヤ。
明日も、予約お願い出来る?
一人で。」
「出来ますよ。
お待ちしております。
あまり、長居が、バレないように、店内、回ってきます!」
「あっ、待って。
連絡先、教えて。」
「いいですよ。」
サクヤは、連絡先を教えた。
ほあかりとつくよみの所に行くと、グチグチと言われたが、スルーした。
閉店後ー。
サクヤはににぎの所に居た。
「今日、お仕事ありますか?」
「いや、休み。」
「良かった……。
説明に、時間がかかりそうだったもので……。」
「それで、話しとは?」
「実は、このお店、国や市など、色んな方が、ご利用して下さっているんですが、中には、世間に出るのは、不味い方も、いらっしゃいます。
その為、あたし達の出来る限りの、対策をご用意させて頂いております。
ここまで、話せば、ににぎ様には、分かって頂けると思いますが、ににぎ様を政界の方々と同じ扱いにさせて、頂きたいのです。」
「せっ……、政界の人と??
ちょっと、大袈裟なんじゃ……。」
「いえ、今回、このような、Limeがきた以上、政界の人と同じ扱いにさせて頂いた方が、よろしいかと……。」
「うーん……。
でも、親戚や家族だしなぁ……。」
「だから、余計に関係を壊さない為にも、同じ扱いにさせて下さい!」
「分かった!
そこまで、サクヤが言うなら、そうするよ。」
サクヤは、ぱぁーっと、笑顔になった。
「では、ご説明させて頂きます。
まず、ご来店頂く時間ですが、16じ45分になります。
集まって頂く場所は、このお店の裏口となります。
こちらは、後ほど、実際にご覧頂き、歩いて頂きます。
裏口からの、出入口に、必ず、一人、従業員が居ますので、名前をおっしゃって下さい。
従業員は、札をお渡しすると思いますので、席担当について行ってください。
お会計は、お部屋でさせて頂きます。
ここまでで、分からない所が、ございますか?」
「いや、大丈夫だよ。」
「では、続きまして、お帰りについてですが、全ての会計が、済んだあと、一般の、お客様を送り出しします。
その次に、ににぎ様達になりますので、少し、遅くなります。」
「分かった。」
「あと、注意点が、ございます。
一見さんは、裏の常連の方と来ていただいても、裏道を、お使いされることは、出来ません。
団体で、ご登録頂いてる場合は、当日、参加される方々が、全員集まってからの、ご案内となります。
ご登録者様は、ご登録頂いてる方との入店の場合、お一人で、ご入店の場合は、必ず、裏口をご利用いただきます。
次に、この裏道は、どんな方であろうと、秘密にしてください。
ににぎ様の周りの方は、誰も知りません。
皆さんには、黙っていて下さい。」
「分かった。」
「では、裏口と裏道へ、ご案内させて頂きます。」
サクヤは、中央フロアの一角にある、裏口に連れてってくれた。
そして、そのまま、裏道を紹介して、店内に戻った。
「明日から、先程の道をお使い下さい。」
「分かった。」
サクヤは、ににぎを見送った。