KANATA~answers of your selection~

「あのさ、辻村」


「私じゃなくて別の人に聞いて下さい」


「まだ怒ってる?」


「知りません」



辻村はずっとこの調子だ。


電車での質問に怒ってしまったのか、あれ以降口をきいてもらえずに2週間が経った。



「今日はオレと辻村しかいないんだからさ、少しくらい話聞いてくれよ」


「真希は日直が終わったらくるのでそれまで待ってて下さい」


「でも、一応辻村の意見も聞きたいなと...」



オレは子供のご機嫌取りをしているのか。


自分の行動に呆れる。


泣けてくる。


何してんだ、オレは。



「辻村は夏の合宿さ、長野か福島かどっちがいい?」



黙々と宿題に取り組む辻村。


さらさらの黒髪が肩まで伸びていて、その髪を耳にかける時にいつもどきっとする。


シャープな輪郭が一段と美しく見えるのだ。


見とれてるって言えば良かったのか。


見とれてる...そう言われればそうなのかもしれない。


今言えばいいのか。


言うべきなのか。


言えば機嫌が良くなるのだろうか。



「辻村?」



パイプイスを出してきて辻村の目の前に座る。


やはり辻村は口を聞いてくれない。


ひたすら計算式を解いている。


答えのある数式はいいなと思ってしまう。


その向こう側にいる人間にかける言葉には正解がない。


いつも考えさせられる。


そして難題ばかり与えてくる。



「辻村、この前は本当にごめん。謝っても許してもらえないかもしれないけど、ちゃんと謝る。
...ごめん」



何のことで謝るのかよく分からないが、辻村を傷つけてしまったのは確かだ。


こんな顔をさせたのはオレなんだ。


オレがなんとかするしかない。



「この部屋暑いよな。喉乾くからなんか買ってくるよ」



そう言ってオレはひとまず部室を出た。