そんなオレが母さんに反抗しなくなったのは、母さんの過去を知ったあの時からだった。
高校受験を控えた中3の冬。
母さんがおにぎりを持って部屋にやって来た。
「いらないっていってんじゃん!そんなの作ってないで寝ろよ。どうせ明日も仕事なんだろ」
そう言って突き放したはずなのに、母さんは動じることなく話し出した。
「お母さんね、仕事が忙しいって言い訳したくない。奏太と虹晴の母親にはかわりないんだから、精一杯愛情を注いであげたい。自分がしてもらえなかったことはちゃんとやりたいの。親のエゴだけど許してね」
母さんがこんなにも悲しそうな表情を初めて見た気がした。
いつもしっかりして何があっても笑っているような母なのにこんな顔をするのかと驚いた。
胸がロープで固く締め付けられるようだった。
「お母さんは小2の終わりにあなたのおばあちゃんを亡くしたの。それからは祖母に育てられた。祖母もいなくなって父と2人になると父は家に滅多に帰ってこなくなった。そのうち再婚して新しい家族を迎えた。私はそれには着いていかなかったの。だから家族と過ごした時間が他の誰より短くて、自分の家族が出来たら、死ぬまで愛情を持って接したいと強く思ってた。特に子供には迷惑をかけたくなかった。私の都合で子供を振り回すのは間違ってる。自分より大切なものは、親になったら子供しかいないの」
自分より大切なもの...。
母がどんな想いでオレに接してくるのかが手に取るように分かった。
母の全てでオレを愛して育ててくれたんだ。
「母さん...ごめん。何も知らないのに大口叩いたりして」
オレが謝ると母が頭を撫でた。
その手の温もりは小学校の運動会で一等を取った時以来だった。
母もオレにどう接したらいいか悩んでいたのかもしれない。
「本当にごめん」
「謝らないで。笑ってよ、奏太。奏太が笑ってくれたら母さんも嬉しいから」
オレは泣きながら笑っていた。
母に無理やり詰め込まれたおにぎりの味なんてもちろん分からなかった。
ただいつもの具なしの塩むすびだったことは覚えている。
高校受験を控えた中3の冬。
母さんがおにぎりを持って部屋にやって来た。
「いらないっていってんじゃん!そんなの作ってないで寝ろよ。どうせ明日も仕事なんだろ」
そう言って突き放したはずなのに、母さんは動じることなく話し出した。
「お母さんね、仕事が忙しいって言い訳したくない。奏太と虹晴の母親にはかわりないんだから、精一杯愛情を注いであげたい。自分がしてもらえなかったことはちゃんとやりたいの。親のエゴだけど許してね」
母さんがこんなにも悲しそうな表情を初めて見た気がした。
いつもしっかりして何があっても笑っているような母なのにこんな顔をするのかと驚いた。
胸がロープで固く締め付けられるようだった。
「お母さんは小2の終わりにあなたのおばあちゃんを亡くしたの。それからは祖母に育てられた。祖母もいなくなって父と2人になると父は家に滅多に帰ってこなくなった。そのうち再婚して新しい家族を迎えた。私はそれには着いていかなかったの。だから家族と過ごした時間が他の誰より短くて、自分の家族が出来たら、死ぬまで愛情を持って接したいと強く思ってた。特に子供には迷惑をかけたくなかった。私の都合で子供を振り回すのは間違ってる。自分より大切なものは、親になったら子供しかいないの」
自分より大切なもの...。
母がどんな想いでオレに接してくるのかが手に取るように分かった。
母の全てでオレを愛して育ててくれたんだ。
「母さん...ごめん。何も知らないのに大口叩いたりして」
オレが謝ると母が頭を撫でた。
その手の温もりは小学校の運動会で一等を取った時以来だった。
母もオレにどう接したらいいか悩んでいたのかもしれない。
「本当にごめん」
「謝らないで。笑ってよ、奏太。奏太が笑ってくれたら母さんも嬉しいから」
オレは泣きながら笑っていた。
母に無理やり詰め込まれたおにぎりの味なんてもちろん分からなかった。
ただいつもの具なしの塩むすびだったことは覚えている。



