「よっしゃ!終わった~」


「良喜びすぎだよ。夏休みなんて当たり前に来るじゃん」


「高校最後の夏休みだぞ。特別なんだよ、俺にとっては」


「奏太は夏休みどっか行くの?」


「いや、特には...」


「そうだよね。受験生だし、のんびりなんてしてられないんだよ」



良とも未夢とも変わらず話している。


何かが変わると思っていたが全然そんなことはなかった。


ただ変わったことと言えば、オレが空気をよく読んで嘘も簡単につけるようになったということか。


2人の邪魔にならないように、2人に亀裂が入らないようにオレは常に様子を伺うのだ。



「おい、奏太」


「うん?何?」


「8月6日の花火大会いかねえ?俺と未夢も行くんだけど」


「いや、オレはパス。その日は長内さんたちと旅行行くことになってんだ。ごめん」


「謝んなよ~。つうか俺にとっては羨ましすぎるわ。だって大学教授と行動を共にするんだろ?いいなー」



半分本当、半分嘘。


嘘つきは巧妙に真実を混ぜ込み、嘘を作る。


この技を体得したオレは精神的に強くなっていた。



「じゃ、俺らは帰るわ。じゃあな」


「夏休み楽しめよー」



2人がいなくなった教室はオレの心みたいに空っぽだった。


オレは夏休みが終わる前にもう1度屋上に行きたいと思い、荷物をまとめて教室を後にした。


校内を走っている女子バスケ部の中に未夢はいない。


心変わりで辻村が入部したのかと考え、すれ違う人の顔をちらっと確認してもそこには辻村の姿はなかった。


オレはどうして探してしまうんだろう。


探してもここにはいないって分かっているのに。


辻村の姿を思い浮かべながらノブを回し、期待してドアを開けたが辻村がいるはずもなかった。


ここで部活の仲間と遊んだのが遠い昔のように感じる。


南から吹いてくるからっとした熱風がアスファルトを焦がしていく。


なぁ、辻村。


どこに行っちゃったんだよ。


こんなに寂しくさせるなんて反則だ。


オレは柵にもたれかかり、辻村と出会ってから今日までのこと、そして、自分の将来を考えていた。