KANATA~answers of your selection~

「今日は楽しかったですね」


「そうだな。屋上があんなに立派になるなんて思わなかったよ」


「私もびっくりでした」


「あそこで出会ったんだもんな。なんか不思議だな」


「そうですね」



電車を降りて初夏の香りがする中を2人で歩いていく。


疲れたのか少し元気のない辻村にオレは必死に話しかける。


今まで沈黙を埋めてくれたのは辻村だ。


今日くらいオレが埋めよう。



「オレ、思ったんだよ。今日天文部の皆を見て。バスケ部辞めて良かったなって。後悔もなくなった。こんなに楽しいメンバーに囲まれてオレ幸せだなって思えた。後悔から喜びとか幸せって生まれるんだな」


「そうですね」



やっぱりなんか変だ。



「辻村?」



辻村の方を見た。


オレの瞳には見たことない彼女の表情が映った。


涙こそ流していないものの、どこか悲しそうで悔しそうに唇を噛んでいた。



「辻村大丈夫?気分悪い?」


「大丈夫です。ただ...」



辻村の歯切れが悪いのは、本当は言いたくないからだ。


そのくらい分かる。


もう5ヶ月も一緒にいるんだから。


一緒に時を刻んで来たのだから。


言いたくないなら言わなくてもいい。


何をしようと、


何と言おうと、


オレは辻村を受け入れる。


そう決めたのだから。


彼女の弱さはオレが知ってる。


だから包み込んで見えないようにすれば良い。


そのくらい出来る。



「ただ...その逆もあるかもしれないって思ったんです」


「えっ...」


「幸せから後悔が生まれるってことです」



そんなことあるか。


幸せというのは人生において最高の状態だ。


それを否定する感情が生まれることなど、どんな状況で起こり得るんだろうか。


辻村はどうして急にそんなことを言い出したんだ。


分からない。


見えない。


辻村の心も。


天の河も...。



「私の彦星の奏太先輩、わがまま聞いてくれますか?」


「なんだよ、急に」


「一緒に来てほしい場所があるんです。ちなみにもう視界に入ってますけど」


「は?どこ?」


「あれに乗って行きましょう」



辻村が指差した先にあったのは、高台にあるニュータウン行きのバスだった。



「さ、早く行きましょう」



やっぱり辻村はわがままだ。


だけどそれが彼女らしい。