「あら、勇気くん、小梅ちゃんいらっしゃい」

奥田さんは、近所に住む一人暮らしのおばあさんだ。やっかいごとが家にある時には、お世話になっている。
俺は奥田さんに頭が上がらない。

「ゆっくりしてって頂戴ね。いつまでいてもいいからね」

たれ目がちの目元をゆるりと下げて、奥田さんは穏やかに笑んだ。


夜になって、小梅と俺は客間で布団を並べていた。
小梅はもう眠っている。

小梅と俺は、母親は一緒だが父親が違う。
俺は比較的父親に似ているがーーーーー。

小梅の寝顔を見る。

どろりとどす黒い感情が胸を支配しそうになって、俺は頭を抱えて激しく振った。
駄目だ。

でも、この子は母親によく似ている。

あぁ、


憎い。


母親に似たその顔が、憎い。


ごめんな小梅。

俺ーーーーー。


俺は懐に仕舞っていたカッターナイフを取り出して。

ギリギリ皮膚を破かない程度に小梅の首筋に突き立てた。

このまま力を込めたら、小梅死ぬのかな。


そんなことをつらつら考える。

俺は毎晩、最愛の、たったひとりの妹を、殺すかどうか悩んでいる。