街の中心にある大きなツリーの前。
恋人たちや家族で来ている人が多い中、忙しくその横を通り過ぎようとしている男がいた。

現実を忘れてしまいたい。

縛られる時間から逃げて過ごした日々がすでに懐かしい。

男、湊は自分の父親の体調が悪化しもうすぐ父の会社を継ぐことが決まったばかりだった。
ずっとなりたかった医者になって、経験も積み、難しい手術も任せてもらえるようになった。
担当の患者も多い。

夢をかなえるまだ途中の湊にとっては父の会社を継ぐことは夢をあきらめて現実に戻される。そんな感覚だった。

でも、今はもう自分の夢ばかり語ってはいられない。
父の会社に勤める社員の生活も背負わなくてはならない責任がある。

継ぐならば中途半端なことはしたくない。それが湊の性格だった。