ごそごそと私の横で鞄を漁る光を待っていると、廊下がにわかにざわめいているのに気づいた。
そのざわめきは徐々に大きくなる。
それに光も手を止め顔をあげて、廊下の方に目を向けた。
「…なに?」
「さぁ…」
私が首をかしげながらお弁当箱からまたおかずをつまんだとき、教室の前扉からひょこりと人が顔を出した。
瞬間に教室が少し色めき立った、気がした。
隣からも「えっ」と声が上がる。
「知り合い?」
そう首をかしげた私を見て、光はまたも「えっ」と驚いた顔を見せた。
本当に、表情豊かだなぁ。
その活発な表情筋を少し分けてほしい。
すると、光の手が鞄から抜き取られ私の両肩に置かれた。
ついでにがしりと握られる。痛い。
「ふみあの人のこと知らないのっ?」
「…えぇ……?」
知らないの…って。
その焦燥さえ感じられる雰囲気に気圧される。
「驚愕」と書いてある顔をじっと見て、それから私はもう一度視線を戻した。
爽やか、を体現したような男子生徒だ。
上履きのラインの色からしてひとつ上…3年生だろう。
身長はすらりと高く細身に見える。
対して顔は小さい。いわゆるモデル体型。
目鼻立ちははっきりしていて、短めの黒髪がよく似合う。
……確かに綺麗な人だけど、テレビでも雑誌(全然持ってないけど)とかでも見たことはない。
「…知らないけど」
「まじかっ…」
私の返答に光は考える人よろしく手を目元に持っていきなぜか項垂れた。
しかしすぐに立ち直りまた私の肩を掴む。痛い。
「花崎先輩だよ!花崎 葵先輩!
この学校1顔が良くて王子さまのような性格の男の稀少種!」
「きしょうしゅ…」
なるほど、それはすごい。
