「おはよ、赤嶺くん」
「おう、綾乃」
廊下側から2列目、前から2番目の席。
教室に入るとすぐ目に入る場所に、彼らはいる。
あの日のように寄り添って。
あの日とは違って幸せそうに。
私のいない空間に。
「おー、赤嶺くんと布施さんは今日もお熱いねぇ」
光のその呟きは、彼女の知らないうちに私の内側に突き刺さる。
深く深く刺さって、どうしようもないところまで入り込んで。
あの日から未だ消える兆しを見せない傷口を抉る。
よりによって二人とも同じクラスにすることないのに、と。
誰かに当てることもできない感情は、それでも湧いてきてきりがない。
誰かが仕組んだのかと勘繰ってしまうほど最悪な采配に、始めは本気で泣きたくなった。
「…そうだね」
呟くように返して私は彼らを視界から追い出した。
見ると、傷口から血が溢れて溜まって、胸がどろどろと重くなるから。
「……そういえば、今日の英語、光から当たるんじゃない?」
「え"っ、うそっ、予習してないよ!?」
「だと思った。ノート見せてあげようか」
痛んだ胸を無視して話題を変える。
途端に光が私を拝むように手を合わせてきて、その姿に私は笑みを取り戻した。
その必死さについに声をあげて笑って「あとでジュース奢ってね」と付け加える。
光といれば、私は笑うことができる。
そうしている内に、胸のなかで疼く痛みも忘れられればいい。
彼を、愚かにもいまだ想う私も、消えてしまえばいい。
早く、早く。
そう願えば願うほどその想いは根付いて行くように思えて、煩わしくて面倒で嫌になる。
恋心は厄介なのだと、私は思い知ったのだ。