抱きしめて、離さないで





ふっと記憶の底から顔を出した思い出に胸を締め付けられたような気がした。

それを少し鬱陶しく感じて、誤魔化すように私は小さく息を吐き出す。



「…ほんとにごめん。
次は気を付ける」

「あぁ、それで頼む」

「…………………赤嶺くんも、ごめん」



私は先約だったらしい彼の名前を小さく付け足した。
心臓がどくどくと大袈裟に跳ねているけれど、それを後ろに立つ光の掴んだままの袖を強く握ることでやり過ごす。

一方の赤嶺もまさか呼ばれるとは思わなかったようだ。
一瞬目を見開いて、うん、と頷いた。



「じゃあ明日の放課後、よろしくね」


「ちょっと!あたしはまだっ───」



布施の方は見ずに早口で話を切ると、また喚きだす光の背中を押した。

周りに注目されながらも、手をばたつかせる光を半ば強引にぐいぐいと廊下まで押し出す。

そこでやっと私は光の背中から手を放して、すかさず次は彼女の腕を掴んだ。



「離してよ」

「だめ。離したらまた日向くんのとこ行くでしょ」



半目で睨み付けると、光はむぅと頬を膨らませた。

高校生にもなってなんて顔をするんだこの子は。

若干呆れつつ、「そんな顔してもだめ」と宥めると、光はようやく抵抗をやめた。



「あーもーむかつくうぅぅ」

「…もー…なにをそんなに怒ってるの……」



やめてよねほんと。

ため息をつく私に、光は手をわきわきと意味なく動かし、眉間に深い深いシワを刻んだ。