抱きしめて、離さないで




*



渡さなきゃ、渡さなきゃ、渡さなきゃ。

そう思って、動こうとして。

そして2日が過ぎて、ついに集まりの前日の、昼休み。



「……光、このプリント日向くんに渡すの、付いてきてくれない?」

「…あんた、まだ渡してなかったの?」



人見知りだったっけ?と怪訝な顔をする光。

光には赤嶺とのことを話していない。
だから、その反応をするのも当然だ。



全く行動を起こさなかったわけではない。
ただタイミングがなかった。

日向くんと赤嶺は本当によく一緒にいて、そこに布施が入ったり入らなかったり。

やっと離れても先生となにやら話していたり、逆に私がひき止められていたり。



今は3人でいる。

本当はやっぱりどうしても嫌だけど、もう集まりは明日だ。
いま言わないともう言えないだろう。



「……だめ?」

「…いや、それくらい別にいいけど」



不思議そうに、けれどそう答えてくれたことにほっとする。

少し緊張していたらしい。
光に断られたら、きっともう一人では渡せないから。
知らず入っていた体の力が抜けたように感じる。

そしてそれは、まだ自分があの時のことを忘れられていないのだということの証拠でもある。



ありがと、と笑うと、光はその猫目に心配の色を滲ませた。



「大丈夫?具合悪い?」

「っ…ううん、だいじょうぶ」

「ほんと?」



光は人の様子の変化に鋭い。
具合が悪いとか、落ち込んでいるとか、隠してもすぐにばれてしまう。

それはよく私を助けてくれるけれど、時として少し居心地が悪い。



いまもそうだ。
疑わしげに目をすがめる光に、私は「本当だよ」と念を押した。

納得はいっていないようだけれど、身を引いた光は今回は見逃してくれるらしい。