どうして。



「ごめん…。」



目の前の彼は私から目をそらして項垂れている。
その後ろには、困惑しているのかそれとも罪悪感からか、視線を泳がせている一番の友達だった人。

いつも3人の楽しげな声で満たされる放課後の教室は、いま沈黙を抱えていた。

静寂のおかげで、体内に響く鼓動は外に漏れ出しているのではないかと思うくらいに大きく聞こえる。



私は似たような光景を知っていた。



2年前、私が中学2年生のときに片思いしていたあの人にも、彼女はこうして寄り添っていた。
仲睦まじげに話す彼らを見ていれば、その関係は聞かなくとも簡単に知れた。



どうして、なんて聞けなかった。

だって私は、ただその人に「片想い」していただけだったから。
その想いを彼女にも、誰にも打ち明けたことなどなかったから。


…でも、今は?



「…どうして…?」



彼らはさっきキスをしていた。
日直だった私がこの場にいない間に。
誰もいないこの教室で。
3人で過ごしたこの教室で。

彼女と彼は───…私の「恋人」は、キスをした。



それは、どうして?



「ごめん。」



無遠慮に踏みつけられたように胸の奥が軋む音がした。
喉の奥から競り上がる何かに押されて、意味のない呼気が漏れた。

目の奥が熱い。
息が震える。
握りしめた手の中で爪が肉に食い込む。



そうして黙る私を、あなたはどう思っているのだろう。







耐えきれなくて逃げ出した私を、あなたはどう見ているの?