「さくらちゃんただいまあ!」



背中がずしんと重くなって、暖かくなった。


「おかえり有志くん、早かったねえ、まだごはん出来てないよ空気読んでよ」
「ひどい!急いで仕事終わらせて帰ってきたダーリンにその言い方はないよハニー!」
「それより動き辛いから離して欲しいなダーリン」
「えー………あっ今日ハンバーグ?ねえこれハンバーグだよね!俺匂いでわかったよ!」


有志くんは私の肩に顎を乗せだして、全然離す気はなさそうだ。あ、有志くんは私の旦那さんである。

「火使ってるから危ないよ」

そう言えば、有志くんは「あ!そっかごめんね!」そそそと離れて私の隣にぴったりくっついた。なんか大きい子供みたいだなあ。


「あと5分くらいで出来るからね」
「うん、いつもありがとうねさくらちゃん」


有志くんはフライパンを見ていた顔を私に向けて、にこーとだらしなく笑った。私はちょっと心臓あたりがこそばゆくなって、なんてなくその柔らかそうな髪をぱしっと軽く叩く。

「へへ、可愛いー」
近づいてくる有志くんの顔を両手でぐいーっと押し返す。もう、すぐキスしようとするよね。

「えーなんでー」
「料理中は危ないから駄目!」
「んーわかった……早く出来ないかなハンバーグー」

有志くんがじれったそうにタイマーを見つめる。あと3分。
私は内心墓穴掘ったあー!と頭を抱えていた。だってあと3分経ったら……………。
どこ、どこ、どこ、と心臓の音がはっきりと聞こえ出した気がした。