【大神狼side】
父さんと話してから数日。
私は昔の思い出を思い返していた。
まだ殺し屋としての訓練を受ける前の普通の女の子だった時の思い出を。
…家族みんなでの思い出って…
覚えてないのかなんなのか。
ぽっかり空いた穴みたいになってるんだよね。
どうしても最古の思い出が6歳なんだ。
「…」
「狼?どうした?」
「虎…」
虎は覚えてるのかな?
「なあ、私って6歳の時、記憶失った?」
…そんなわけないよなあ…
「…思い出したのか?」
「…?」
虎は私を見て涙目になる。
…思い出した?
私、やっぱり記憶ないのか?
「…どういうことだ?」
「狼はあの事件の時、記憶を失ってるんだ。」
…だから6歳以前の記憶が無いのか。
アルバムを見てもわからないことだらけな私の思い出。
虎は私の部屋にアルバムを持ってきた。
「…狼の部屋って相変わらずなんもねえなあ…」
「うるせえ。」
「…狼は昔、ほんとに優しくて可愛くて明るい女の子だったんだ。
狼がその口調になったのは訓練を受けてきてたから。」
元々この口調なのかと思ってた。
私にも女の子らしい時があったんだな。
「これ、家族で旅行行った時の写真。」
虎がみせてくれた写真には1人知らない男の子が写っていた。
「虎、この子誰?」
私と虎の間にいる少し年上の男の子。
…どことなく顔が似てる。
まさかな…
「…ああ、お兄ちゃんだよ。」
…お兄ちゃん。
お兄ちゃんの記憶すらない。
ああ、私ほんとに記憶ないんだ。
「お兄ちゃんって今どこにいんの?」
「…」
虎は目を伏せる。
「…お兄ちゃんはこの旅行の1週間後、誘拐されたんだ。
今も見つかってない。」
…この時私たちは3歳。
「お兄ちゃんは6歳の時、誘拐されたんだ。
お兄ちゃんの名前は大神夜。」
大神、夜…
今も行方がわからない私のお兄ちゃん。
ーコンコン…
「なんだ?」
「狼、ちょっといいか?」
私の部屋の外には父さん。
「ああ、今行く。」
私はパーカーを羽織って立ち上がる。
「狼、父さんとは和解したのか?」
「…さあ?」
虎が不思議そうに私を見るけどそんなの知らない。
私はただ、言われた通りに動くだけだ。
「なんだ?」
「依頼が来たんだ。」
「…ああ。」
「依頼主は相川明里。
ターゲットは相川千星。
依頼主の妹だ。」
…千星を?
殺すの?
「…あ、あ…」
「狼?」
「なんでもない。任務遂行してくる。」