「おいゆづ、新曲出てんぞ」

バンド仲間のその声を聞いて、スマートフォンに飛び付いた。

「ホント好きだよな」
「俺らの曲より好きだろ……」

自分のバンド以外で唯一チャンネル登録している、大好きなアーティストのページに飛ぶと、博貴の言った通り、新曲が上げられていた。
過去一回だけしていた、まだ無名の頃の生放送。そのときしていた彼のヘッドフォンの、色違い。宝物のそれをスマートフォンに繋げ、ヘッドフォンを装着。
今では消されてしまっているアーティスト写真に写っていた、吸い込まれるような紅い瞳。
その紅と同じだったこのヘッドフォン。高かったけど、ファンなら、大ファンなら。買わずにはいられなかった。




--走って行かなくていいよ

--前さえ向ければ それでいいの

--無理して行かなくていいよ

--君が居ればそれだけでいいから

--きっと未来(明日)には


--世界が彩るから





「(いいなあ……)」

何度も聴いたこの声は、良く耳に馴染む。

「(いつか、コラボできないかなあ)」



そんな夢みたいな日、訪れるわけないけれど。